NchMOSFETだけのハーフブリッジ回路のハイサイド駆動について
はじめに
BLDCモータの駆動回路を見るとハーフブリッジ回路を3つ使用してると思いますが、この時のハーフブリッジ回路の構成としてはPchMOSFETとNchMOSFETを使用したもの、NchMOSFETだけを使用したものがあります。
NchMOSFETだけでハーフブリッジ回路を構成する場合、ハイサイドの駆動には「電源電圧より高い電圧が必要になる」という文言をよく見るのですが、なんで高い電圧が必要なのか自分で理解しきれていない部分があったので今回まとめてみます。
NchMOSFETの動作
ハイサイド駆動について書く前にNchMOSFETの動作について整理します。FETの動作は様々なサイトで既に説明がたくさんありますので、ここでは簡単に書きます。スイッチング用途でNchMOSFETを動作させるにはゲート・ソース間電圧(Vgs)にゲートしきい値電圧(Vth)以上の電圧を印加するとON、しきい値電圧以下の電圧(基本的には0Vかな?)を加えるとOFFになります。
ゲートしきい値電圧(Vth)は基本的にデータシートに記載されており、手元にあったサンケン電気のEKI04047のデータシートを見ると以下のようになっています。この場合は2.5V以上の電圧を印加すればNchMOSFETがONになると思われます。
エンハンスメント特性について
ゲートしきい値電圧(Vth)に関連するものとしてエンハンスメント特性というものがあります。エンハンスメント特性とは「ゲート・ソース間電圧(Vgs)に印加する電圧が大きくなるほど流せるドレイン電流(Id)が大きくなる」というものです。ここでまた、サンケン電気のEKI04047のデータシートを見るとドレイン電流Idとゲート・ソース間電圧(Vgs)電圧は以下のようになっています。
上図を見るとゲート・ソース間電圧(Vgs)によって流せるドレイン電流Idが変わっていることが分かります。電気的特性の表に書いてあったゲートしきい値電圧(Vth)の2.5Vを印加しただけではドレイン電流Idにはそこまで大きな電流が流せないこともこの表から読み取れます。実際にEKI04047を使用する場合はゲートしきい値電圧(Vth)ギリギリの電圧を印加するのではなく5V程度にするのが良さそうですね。
注意点としてゲート・ソース間電圧(Vgs)に印加できる最大電圧も決まっています。EKI04047のデータシートを見ると絶対最大定格の表には±20Vまでとなっているのでこれ以上の電圧をゲート・ソース間電圧(Vgs)に印加すると壊れます。
更に余談ですがEKI04047はホームページを見ると「新規設計非推奨」になっています...。
NchMOSFETのハイサイド駆動
それでは本題です。以下に簡単なハーフブリッジ回路を示します。上側のMOSFETをハイサイド、下側のMOSFETをローサイドといいます。図中のNchMOSFETはEKI04047と思ってください。
ローサイドのNchMOSFETの駆動ですが、これはソースがGNDに接続されているため先程のNchMOSFETの動作で説明した内容でどう動くか分かると思います。
ハイサイドのNchMOSFETの駆動ですが、ここからは自分の推測など入ってます。段階的にハイサイドの状態を追っていきます。
- IN_H、IN_Lが共に0Vとすると、"OUTPUT"の電圧は抵抗を介してGNDに接続されているので0Vです。
- ここでIN_Hに5Vを印加するとゲート・ソース間電圧(Vgs)はゲートしきい値電圧(Vth)以上になるためハイサイドのNchMOSFETがONになります。
- NchMOSFETがONになると"OUTPUT"の電位は電源電圧の5Vに引き上げられます(実際にはMOSFETのオン抵抗RDS(ON)があるので多少ので電圧降下はあります)。
- "OUTPUT"が5Vになるとゲート電圧とソース電圧が同電位となりゲート・ソース間電圧(Vgs)は0Vになります。
- 結果としてゲート・ソース間電圧(Vgs)はゲートしきい値電圧(Vth)以下となりハイサイド側のNchMOSFETはすぐにOFFに戻ってしまいます。
この現象を回避する方法としては、NchMOSFETのゲートに印加する電圧を"電源電圧+ゲートしきい値電圧(Vth)"以上にする必要があります。これはつまり「電源電圧より高い電圧が必要になる」ということだと理解しました。
おわりに
今回はNchMOSFETでハイサイド駆動する場合に「電源電圧より高い電圧が必要になる」理由についてまとめてみました。正直書いたことが正しいか不安ですが、自分の中ではこう考えて理解したってことになります。
ここまで来たら次はどうやって電源電圧より高い電圧を作り出すかってことになりますが、方法としてはブートストラップ回路等あるようですがまだ理解が追いついていない状況です。
BLDCモータを駆動させる道は長い...。